いろいろな昔話をしてきましたが、今回は時間軸が現在に追いつく、過去編最後のお話です。
2024年4月時点で、ジュリ・シイバの姉妹とウテウテ・ノボリの父子はそれぞれ安定して同居できるようになっていました。繁殖期も終わり、メスとオス同士を同居できる季節になったため、血縁関係のあるこの4頭を同居させることを次なる目標としました。
冬の繁殖期にメス同士の同居を進める際、たとえ別室であってもオスが同じ獣舎内にいた場合、メス同士の闘争の火種となる可能性が考えられました。そこでジュリとシイバの関係性が安定するまで、ウテウテとノボリはメスたちの目の届かない場所、獣舎から離れた非公開施設に移動していました。雌雄4頭の同居に向けて、まず5月半ばにオスたちはメスたちのいる獣舎へ引っ越しました。6月から、メス2頭対オス2頭の見合い・同居練習を始めました。いつどの個体同士で闘争するか分からないため、それまで繰り返してきた2~3頭の同居に比べ、見守っている側としても非常に緊張する日々が続きました。以前お伝えしたように、ミクとニイナ・サンナ母子の同居練習の際は、仲良くなったと安心した直後に突然闘争してしまい、泣く泣く分離したという苦い過去もあります。特に4頭の中ではシイバが最も力がある様子で、かなりオスに強気な態度を取っていたため、ハラハラさせられることもしばしばでした。いつ何がきっかけで闘争するか分からない中、こちらの心配をよそに当の本人たちは緊張しながらも順調かつ確実に距離を縮めていきました。早くも6月末には短時間の室内同居練習を終え、次に展示場での同居練習までこぎつけました。初めて展示場で過ごす4頭を見た時には、大げさではなく涙が出そうなほど感慨深いものがありました。4頭が並んで展示場をあちこち歩き回ったり、活発に動き回る様子を見て、やはりワオキツネザルは群れで生活してこそ輝くと実感しました。展示場での数時間の同居練習を繰り返した後は、より狭い寝室での長時間同居ができるまで、どうようの練習を繰り返しました。そして遂に8月末、夜間を含む終日同居にまでこぎつけることができました。


左からシイバ、ウテウテ、ジュリ、ノボリ。展示場で過ごす4頭。事情を知らなければなんてことのない光景ですが、ここまでの長い道のりを思うと感慨深い思いです。


左からシイバ、ジュリ、ノボリ、ウテウテ。平和な時もあれば、餌をめぐって小競り合いをすることも。

同居が完了して以降、群れ生活特有の変化も見られました。まず展示場での動きがどの個体も圧倒的に増えました。展示場をしばらく見ていても、4頭ともじっと動かない時間は少なく、来園者からよく言われていた「全然見つからない」という感想も聞かれなくなりました。また、メスたちはそれまでゴボウや葉野菜、展示場の下草などの嗜好性が低い餌を進んで食べようとしなかったのですが、オスたちと同居して以降、少しずつですがこれらの餌も食べるようになりました。オスたちの動きを見て、影響を受けたのかもしれません。
遂に念願の3頭以上での同居にこぎつけましたが、実はこれがゴールというわけではありません。まだミク、ニイナ・サンナは状況が変わらないまま過ごしていますし、これからまた繁殖期がやってくるため、今回同居に成功した4頭も繁殖コントロールのためにしかるべき組み合わせで再び分ける必要があります。いつ個体同士の関係性に変化があるかわかりませんし、もしも繁殖を目指すことになる場合は、個体同士の組み合わせを慎重に考える必要も出てきます。まだまだ安定した群れづくりは道半ばです。


忘れられていそうですが、まだ単独生活のミク。時々仲間を呼ぶように鳴いているときがありますが、隣室で暮らすニイナ・サンナとは関係が改善しないままです。

これまでも様々なことがあった波乱の繁殖期が今年もまたやってきます。ワオキツネザルたちの奮闘はまだまだ続くことでしょう。