ヒナを保護する前に
動物病院だより
野生動物は、平成15年4月に施行された「鳥獣保護法(鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律)」で厳しく守られていることをご存じですか。高知県でもこの法律の基本指針に基づき保護事業を実施していて、傷ついた動物たちの相談窓口は最寄りの市町村役場となっています。のいち動物公園では、保護動物たちの治療施設として活動しています。野鳥に関しては、主に春から夏にかけて保護が集中します。この時期は、様々な鳥たちが誕生して自然界に羽ばたいていくからです。この季節には少し注意して頂きたいことがあります。それは「巣立ちヒナ」の保護です。「巣立ち」とは、巣から離れて自分の力だけで生きていけるようになるための訓練開始を意味しています。そのため、満足に飛ぶことも餌をとることもできないまま、巣から飛び立っていくのです。
皆さんは、「巣立ち」=「一人前」という誤ったイメージをお持ちではないでしょうか。この勘違いにより、「巣立ちヒナ」を見て、弱っている・ケガしていると思い、保護するというケースがあるのではないでしょうか。こうして保護されたヒナ鳥たちは、自然の中で生きていくための大事な教育を親鳥や若鳥から受けられないため、大きく育てても自然界で生きていけないこともあるのです。また、「巣立ち」したからといっても羽がきれいに生えそろっているわけではありません。よく見ると産毛や地肌が透けて見える部分が残っているものです。そして、巣立ち後のヒナ鳥は再び巣にもどることがないため、ヒナ鳥を見つけた時に近くに巣がないことが多いのです。この時、巣から落下したヒナ鳥と勘違いすることもあり、巣が近くにないからと保護されることもあります。「巣立ちヒナ」と「巣から落下したヒナ」との見分けが付きにくいこともあります。そんな時は、おおきなケガや明らかに弱っていないかぎり保護せずに仮の巣を作り、その場から離れて親鳥にまかせるようにしましょう。「巣立ちヒナ」であっても「巣から落下したヒナ」であっても親鳥がヒナ鳥の世話をしに戻ってくる可能性が高いからです。
人が親鳥に代わってヒナ鳥を育てることは大変難しい仕事です。野鳥が人に保護されることだけでも、大きなストレスを受けると思われます。そのため、本当に保護を必要としているかどうか、ヒナ鳥の場合は一度じっくり観察してみてください。