ワオキツネザル

「難題だらけな群れ計画奮闘記」という題でワオキツネザルたちの群れ化計画について長らくお伝えしてきましたが、今回からは同時並行で新たなシリーズとして、3月16日に誕生したシイバの子どもについてお伝えしていこうと思います。
これまで当園では数多くのワオキツネザルの出産がありましたが、今回は他と異なることも多い出産となりました。
まず、多くの場合は夜間や早朝にかけて出産するため、担当者が朝獣舎へ行くと既に生まれているということが多いのですが、今回の出産は日中、開園している時間帯に起こりました。
 ワオキツネザルの妊娠期間は135日。妊娠期間が出産が大きくずれることはほとんどありません。今回の出産予定日は前日の3月15日だったため、そろそろ産まれるはずだとやきもきしていましたが、3月16日の朝獣舎を覗くとまだ生まれていませんでした。今日もまだ生まれないか、と少しがっかりしながら眺めていると、シイバが何やら忙しなく歩き回り、落ち着きがないことに気付きました。明らかに前日までとは違う行動で、産気づいていることはすぐに分かりました。
歩き回っては四肢を踏ん張っていきむことを繰り返し、時々苦しそうにお腹を上に向けて座ったり、横に寝そべるときもありました。そうして忙しなく動き回ること1時間余り、10時1分に1頭目を出産しました。その瞬間を、ビデオを片手に傍らから観察することができました。シイバは出産後すぐに子どもを丁寧に舐めてきれいにしてやり、お腹に抱えていました。子どもも懸命にシイバにつかまり、自力でおっぱいまで登って吸いつきました。私はワオキツネザルの出産自体が初めての経験でしたが、まさか間近で見ることができるとは思いませんでした。母親の力強さと子の逞しさに、改めて生き物の本能、生命力はすごいと感服する思いでした。


出産直後の様子。シイバが子どもを舐めて乾かしています。

1頭出産し少し安心したのも束の間、シイバは再びいきみ始めました。ワオキツネザルは1~2頭産むことが多いのですが、今回は2頭の様でした。通常1時間程度で2頭とも出産するのですが、今回2頭目が出てきたのは何と1頭目が生まれてから3時間以上が経過した、13時半頃でした。高いところに備え付けてある木の台の上から産み落とし、床に落下したのを見たときは焦りましたが、既に2頭目の子どもは亡くなっていたようでした。シイバも執着せずに放っているようだったため、刺激しないように部屋に入り、そっと回収しました。2頭目の子どもは見た目には1頭目と遜色ない体格で、体に異常は見られませんでした。生まれるまでの時間がかかったために亡くなったのか、それともお腹の中で既に亡くなっていたために出産にも時間がかかったのか、どちらかは不明ですが、少なくともお腹の中でしっかりと育っていたのは間違いなさそうでした。
2頭の子どものうち1頭が死産だったことは非常に残念ですが、それでも1頭目が無事に生まれてくれたことにひとまず安心しました。
さて、無事に生まれた1頭の方はシイバの胸でしっかりとおっぱいを吸っており、シイバも子どもをしっかりと抱きかかえて甲斐甲斐しく世話を続けていました。
同居しているジュリはというと、シイバが産気づいた時点から周りを歩き回ったり落ち着きなく鳴いたりと、シイバの方を気にするような行動が目立っていましたが、シイバの近寄ることはなく、少し離れたところから様子を伺っていました。子どもが生まれた後も、遠巻きに眺めており、距離を測りかねているような印象を受けました。
そして不思議なことに、通路を挟んで反対側の寝室で過ごしていたミクが、出産の最中から時々鳴くことがありました。普段から他の部屋の個体と鳴きかわすことが多いミクですが、他の個体が返事をしなかった出産当日も、時々鳴いては向かいのシイバたちの部屋を覗き込み、落ち着きのない様子を見せていました。シイバが産気づいていることや、いつもと違うただならぬ様子を察知したのかもしれません。同居していなくとも、また個体同士の相性の良し悪しに関わらず、やはり群れの動物なのだなと実感した出来事でした。


出産翌日の朝。この時まではしっかりと抱いて子どもの世話をしていたシイバでしたが…

 こうしてシイバのみならず他の個体にも様々な影響があった出産でしたが、1頭生まれてきてくれた上で、母体も無事だったことで胸を撫でおろしました。あとはシイバがしっかり育ててくれる―この時はそう思っていました。
 次回、波乱の事件が起こる出産翌日からお話を再開しようと思います。


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