ワオキツネザル

ウテウテとシイバは冬の間繁殖に取り組むためにペアで過ごしました。今回は繁殖の経過、今後の予定についてお話します。
2頭のみで同居を始めたのは10月下旬。それまではシイバの姉ジュリと、ウテウテとジュリの息子であるノボリと過ごしていました。理論的にはウテウテとシイバ、ジュリの3頭で過ごすことも可能なのですが、あえてシイバとウテウテのみのペアにしたのは理由があります。繁殖にあたり、少数の群れの中で複数のメスが同時に妊娠・出産した場合、子どもを守る意識が高じるあまりメス同士が闘争する可能性があります。実際当園でも、同居していたメス2頭が同時期にそれぞれ出産したことがありましたが、闘争が起こり子どもが命を落とした事例がありました。最悪の事態を避けるため、今年の繁殖はシイバのみに絞ることにしました。


シイバは開園当初から続いてきた当園独自の血統を継いでいるので、積極的に繁殖したい個体でもありました。

とはいえこれまでお話ししてきたように、シイバとジュリも長い年月をかけて同居できる関係性を築いてきました。オスとメスの同居はさほど難しくありませんが、順位を競うメス同士で同居をするためには、かなり神経を使います。ちょっとしたことで闘争したり、関係性が一気に悪化するということがよくあります。また、同居歴の長い個体でも、一度別居しその期間が長くなればなるほど、再同居は困難になる傾向があります。せっかく関係性が安定してきたメス2頭を、あまり長く離れ離れにしておきたくはありません。今では良好な関係を築いている2頭ですが、タイミングを逃せば再同居が難しくなってしまうことも十分に考えられます。
そこで、シイバの妊娠の可能性が高くなったら、早急にウテウテと分離し、ジュリとの再同居を試みることに決めました。ジュリとの再同居を完了し、余裕を持った状態で出産・子育てができるように願っての作戦です。
10月31日、ウテウテがシイバにマウントし、交尾をする姿を確認しました。ワオキツネザルの発情周期は40日前後のため、次の発情が予想される12月10日頃に交尾や求愛などが見られなければ、妊娠している可能性が高くなります。そして12月10日やその前後に発情兆候は見られず、ウテウテからシイバに対する積極的なアプローチはありませんでした。このことから、10月31日の交尾により妊娠している可能性が高いと判断しました。ワオキツネザルの妊娠期間は135日であり、もし10月31日の交尾で妊娠していれば3月中旬が出産予定となります。最低でもその1か月前までにはジュリとの再同居を安定させておきたいと考えました。


10月31日、シイバにマウントするウテウテ。ほぼ予定通り、3月16日に子どもが生まれました。

ここからさらに他の個体を巻き込んだ、パズルのような部屋替えと施設移動について考える必要が出てきました。手順としては
①シイバとウテウテを分け、ペアを解消する
②獣舎の部屋が足りなくなるため、ウテウテをニイナとサンナがいる非公開施設へ移動する
③シイバとジュリの同居練習を進め、再同居を完了させる
④非公開施設へノボリを移動し、代わりに非公開施設で過ごしていたニイナ・サンナを獣舎へ移動させる
⑤ウテウテとノボリを非公開施設で再同居させる
という流れになります。何やらややこしいですが、これは担当者自身も頭を悩ませながらああでもない、こうでもないと検討した末に選んだ、最短かつ最善(と思われる)やり方です。






担当者が検討するにあたって活躍した、ワオキツネザルの部屋割り盤と駒。紙に書くよりも分かりやすく、作戦を考えるための会議にも役立ちました。

3月中旬現在、実は無事にこれらの工程は完了し、シイバとジュリは無事に再同居、ウテウテとノボリも順調に同居に至っています。ブランクがあった分、始めはどの個体も相手の出方を見るように恐る恐る距離をはかっているようでしたが、徐々にかつての関係性を取り戻した様です。


無事に元通り同居できるようになったジュリ・シイバ姉妹。シイバ(左)のお腹が少し大きくなってきた2月下旬の様子。

そして先日SNSでも発表があった通り、3月16日にシイバが無事に出産しました。2頭中1頭は死産となりましたが、もう1頭は逞しく母の胸につかまり授乳も確認できました。ただ、この個体は翌17日の夕方にシイバの胸から落下し、その後シイバに戻すことができなかったため、人工哺育への切り替えという苦渋の決断をすることとなりました。シイバが子育てをすることを前提とした計画がもろくもここで崩れてしまった訳ですが、相手は動物、こちらの思うとおりに行かないのは当たり前です。残念に思う気持ちはありますが、落下した子どもの命を繋ぐため、次のステップへと進みます。出産や子どもの様子の詳細は、また別の記事で紹介しようと思います。


シイバの子どもの情報も、どんどんお伝えしていきます!


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