ワオキツネザル

よくワオキツネザルの展示場を見た来園者から、「檻や金網がないのに逃げていかないのか」と聞かれます。至極もっともな疑問です。展示場内の木から木へと飛び移ったり、数メートルの大ジャンプを披露しているワオキツネザルたちを見ると、余計にそう思われる様です。ワオキツネザルたちが外へ逃げていかない秘密は、島状の展示場の周りを囲う、「ウォーターモート」と呼ばれる濠(ほり)にあります。
ワオキツネザルは陸を走ったり木を登ることが得意な一方、水の中を泳ぐことはできません。そのため幅が広く水深があるウォーターモート(以下、モート)を渡ることは出来ないのです。ワオキツネザルの習性を活かすことで、開放的な展示場の作りになっているのです。ちなみにこのモートの構造はワオの向かいのシロテテナガザルの展示場にも採用されています。
さてこのモートですが、多くの木々に囲まれているため、落ち葉がたくさん落ちてきます。また、日光が当たったり雨水が流れ込むことで、藻が生えたりプランクトンが発生したりもします。そこへさらに水棲昆虫や両生類がやってきて賑わい、ビオトープのように野生の生き物たちのよりどころになることもあります。
モートは月に1回、休園日を使って清掃を行います。水を全て抜き、落ち葉や流入した泥を掃き、藻を落とします。その際に出会うことができる生き物たちを紹介します。


モートの水を抜いている途中。月1回、全て抜いて清掃します。

水棲昆虫では、トンボの幼虫であるヤゴ、コガタノゲンゴロウ、ガムシ、マツモムシ、ミズカマキリなど、野外で探すとなかなか見つけられないような種類が簡単に見つかります。担当は家で様々な昆虫を飼育しているぐらい昆虫好きなのですが、特にコガタノゲンゴロウのつやつやと丸い体を初めて見つけたときは、感動しました。両生類もいろいろ現れます。特に5~7月の雨が多く温かい時期はツチガエルやアマガエル、アカハライモリがたくさんいます。幼生(おたまじゃくし)から成体まで、成長段階が違う両生類たちをそれぞれ観察することができます。


アカハライモリ


ツチガエル


コガタノゲンゴロウ


ミズカマキリ

もちろんモート清掃の際に出てきた生き物たちは近くの水場に移動させたり、バケツに避難させて清掃後に戻したりしています。住処である落ち葉や餌となる藻を清掃してしまうのは申し訳ないですが、彼らもたくましいもので、しっかりと翌月までに成長し、あるいはモートの外へ旅立っているようです。月に1回水を全て入れ替えているとはいえ、ビオトープのように生き物たちの広いモートの清生活の場として機能している面もあるようです。広いモートを清掃するのは大変な力仕事ですが、様々な生き物たちを観察するのは毎回楽しみです。
モートに限らず、皆さんも展示動物以外、園内の自然やそこに暮らす生き物たちにも是非目を向けてもらえれば、面白い出会いが待っているかもしれません。