レッサーパンダ

だんだん外に出るのが億劫になるような暑い日が増えてきました。暑さの苦手なレッサーパンダも屋外展示をお休みして、涼しい屋内展示のみとなりました。
当園の3頭のレッサーパンダの中で一番年長の「カイ」(オス)は、この時期体調を崩しやすくなるので、健康管理には特に気を遣います。「カイ」は体質なのか、元々夏になると粘膜便という異常便を出すことが多く、食欲や体重が落ちることもあります。
全国の動物園関係者の間で、このレッサーパンダの粘膜便問題は長年議論されてきていますが、主な要因が特定できていません。ただ、竹の食べる量が減ることで腸内環境に乱れが生じることが一つの要因なのではないか、と推測されています。当園の「カイ」も、夏になると部屋の気温を涼しく保っていても、暑い時期になるとなぜか竹の摂餌が減ってしまいます。体調も、寝込む日があったかと思えば翌日は元気になったりと波があり安定しません。そこで健康管理と粘膜便の要因特定の第一歩として、「カイ」に竹を食べてもらう工夫をすることにしました。
健康なレッサーパンダの場合、新鮮なものであれば竹を枝のまま与えると、自分で葉を嚙み切って食べます。当園の他の個体、「みたらし」(メス)や「ユズ」(オス)の場合、2m程の竹の枝を1日に5~7本食べます。他にリンゴやペレットも与えていますが、あくまでこれらは栄養価の補助として与えています。本来であればリンゴやペレットは少量にとどめ、あとは主食の竹の葉を食べられるだけ食べてもらうというのが理想です。しかし「カイ」の場合、夏になると枝の竹を一切食べないという日が増え、それに伴って粘膜便を排泄することが多くなってしまうのです。竹を食べていない状態では、リンゴやペレットもうまく消化できなくなるのか、体重も減ってしまいます。では、どうすれば竹の葉を食べてくれるでしょうか。他の動物園関係者の方々から様々なアドバイスをもらいながら、試行錯誤を繰り返しました。
そうしてたどり着いたのが、竹の葉を粉砕して粉状にし、少量のリンゴと混ぜて与える方法でした。
竹の葉を枝から切り離し、ミキサーにかけて粉砕します。次にミルミキサーという、乾燥した硬い物を細かくするのに向いているミキサーでさらに細かくします。非常に手間がかかる方法ですが、繊維の多い竹の葉もしっかりと細かくなります。


ミルミキサーで粉砕したの竹の粉。

この竹の粉とリンゴのすりおろしを混ぜたペーストを作り、与えました。問題はグルメなレッサーパンダがちゃんと食べてくれるかどうかですが、結果は…。


勢いよく竹の粉のペースト餌を食べるカイ。

きれいに完食してくれました!気に入ってくれたようです。この粉の餌を続けて1か月程が経ちました。粘膜便や体調不良がまだ完全に改善されたわけではありませんが、体重も安定するようになりました。また時々ではありますが、自ら枝から竹の葉を食べてくれるようにもなりました。まだまだ改善の余地はありますが、粘膜便や体調不良をも克服できる方法を引き続き探して行きたいと思います。
「カイ」は6月14日出15歳となりました。老齢と言える年齢のため、展示場に出られず皆さんに会えない日もありますが、温かく見守っていただきたいと思います。