【動物ブログ】飼育日記「みんなのギモンに答えてみた!Part1」
レッサーパンダ
朝や夕方は涼しくなり、だんだん秋めいてきましたね。レッサーパンダたちが屋外展示場に出てきてトウカエデの木に登る姿が見られるまであと少しです。
さて、今回世界レッサーパンダの日に行ったイベントについてのお話です。毎年9月の第3土曜日(今年は9月16日でした)は世界レッサーパンダの日です。これはレッサーパンダの保全・保護のために活動する団体「Red Panda Network」が、レッサーパンダの現状をより多くの人に知ってもらい関心を高めることを目的として制定した日です。
当園も毎年イベントを行っています。昨年は新型コロナの影響もあり、YouTubeにおける動画配信のみとなりました(←レッサーパンダのあれやこれやを3分×3編にまとめています。見ていただけるとレッサーパンダに詳しくなり、編集に腐心した私の魂も浮かばれます…)。
今年は皆さんからレッサーパンダについてギモンに思うことを募集し、私が全力で答える企画、名付けて「みんなのギモン?おしえて!レッサー!!」を実施しました。
2週間展示場の前に質問ボックスを設け、合計32通の質問をいただきました。ご参加いただきました皆さん、本当にありがとうごさいます!
その中から厳選した2問は、レッサーパンダの日当日にX(旧Twitter)にてアップさせていただきましたが、この2つ以外にも興味深い質問に関しては、少しずつ回答を展示場前にて公開しています(こちらは手書き100%なので時間がかかっておりますが…)。皆さんよく展示場前の解説掲示を読んでくださった上で、さらに発展させた疑問をぶつけてくれました。一部に答えるのみで済ませるのはもったいないな、と思うぐらい、素晴らしい質問ばかりでしたので、展示場前に掲示したものも含め、こちらでもいくつか回答をご紹介していこうと思います!面白い上に私を唸らせるような質問ばかりで絞れなかったので、2回に分けてご紹介しようと思います。今回は2問です。
※文章を読みやすく一部変換・修正しています。( )内は質問者のニックネームです。
Q 何匹いますか?(なっちゃん)
A レッサーパンダの数についての質問ですね。いろいろな答え方ができそうなので、考えられる限りの答えを書いてみます。
まず、現在当園で飼育しているレッサーパンダは「カイ」「ユズ」「みたらし」の3頭です。当園には展示場が外と中の2か所ありますが、単独生活を送る動物なので、それぞれの展示場に日中いるのは、基本的に1頭ずつになります。
日本の動物園や水族館で飼育されているレッサーパンダは、2022年12月31日時点で全部で267頭(※日本動物園水族館協会に所属する施設のみの数字となります)です。これは毎年それぞれの動物園や水族館が「うちには〇頭のレッサーパンダがいますよ」「△頭生まれ、□頭亡くなり、×頭が他の動物園に移動しましたよ」と申告し、それが集計されたものですので、正確な数字です。
また、ここからはおおよその数字になりますが、世界の動物園や水族館で飼育されているレッサーパンダは350頭ほどと言われています。このことから、世界中で飼育されているレッサーパンダのうち、日本で飼育されている個体がかなりの割合を占めることが分かります。確かにどの動物園に行っても、大抵レッサーパンダがいますよね。レッサーパンダを知らない、一度も見たことがないという日本人がなかなかいないぐらい、レッサーパンダは日本に浸透した存在です。そんな日本は外国からも「レッサーパンダ大国」なんて呼ばれていたりします。
野生のレッサーパンダは、2500頭~10000頭ほどと言われています。数にかなり幅がありますね。これはまだまだ野生のレッサーパンダについては謎が多く、正確な個体数が分かっていないからです。ただ、近年野生のレッサーパンダの数が環境破壊や密猟などによって減っていることは確かです。20年前に比較して、野生の個体の50%以上が減ったとも言われています。レッサーパンダがこれ以上減らないために、今回のレッサーパンダの日のイベントもあるんです。
レッサーパンダのいろいろな「数」にまつわるお話、どうでしたか?面白いですし、考えさせられるデータもありますよね。ここに書いてある以外にも、自分で調べてみると面白いかもしれませんね。
Q レッサーパンダを飼うにはどうすれば良いですか?(キザキ)
A レッサーパンダ、かわいらしくておうちにいてくれたら楽しそうだな、と思いますよね。
そう思うことはとても自然なことですし、動物を飼いたい=その動物のことを知りたいという気持ちの表れだと思うので、それ自体はとても素晴らしいことだと思います。私もいろいろな昆虫や爬虫類をおうちでたくさん飼っていますよ。飼うというのはとても楽しいものです。
ただ、実は現在レッサーパンダは絶滅危惧種に指定されています。絶滅危惧種にもいろいろなレベルがありますが、レッサーパンダはその中でも最も絶滅リスクの高いグループに入っています。なので一般の人がレッサーパンダを手に入れ、家で飼うことは国際的な野生動植物に関する取り決め「ワシントン条約(CITES:サイテスとも言います)」で厳しく禁じられています。なぜなら、レッサーパンダを飼いたいと思った人々が野生のレッサーパンダを捕まえたり、利益のために殺してしまったことによって、野生のレッサーパンダは数が減り、危機的な状況にあるためです。厳しいルールで守らなければ、レッサーパンダがいつかいなくなってしまうかもしれないからです。
また、レッサーパンダを飼うためには、広い場所、高額な電気代、大量の餌などが必要です。それを十分に整えるためには、少なくとも日本では動物園・水族館のような大きな施設で飼う必要があります。とても個人で飼うことができる動物ではないですし、実際多レッサーパンダを違法に手に入れた多くの人々が、不十分な知識や世話のために飼いきれず、身勝手に殺してきました。そんなレッサーパンダを救うため、レッサーパンダの未来に役立てるために、動物園や水族館は厳格な飼育基準やルールを守りながら、レッサーパンダを大切に飼育しています。
近所で捕まえた昆虫やカエル、金魚すくいの金魚、イヌやネコ、小鳥など、おうちで飼うことのできる動物も世の中にはたくさんいます。本当にその命を自分の責任で世話できるかどうかをじっくりと考え、できること、飼うことができる生き物であれば挑戦してみるのもいいと思います。ただ問題なのは、自分が抱いている「飼いたい」「手に入れたい」という気持ちが、その動物種(個体もそうですが)の未来を大きく変えてしまわないかどうかだと思います。レッサーパンダに限らず、地球上の多くのいきものたちがどんどん絶滅危惧種となってきているのは、かつての人々の「自分で飼いたい、育てたい」「手に入れたい」という個人的な欲求がもたらした悲劇なのです。
そんな窮地に陥っているレッサーパンダたちのことを皆さんに知ってもらい、理解してもらうための「レッサーパンダの日」にこの質問をしてくれたキザキさんに、このような形で答え、その答えが一人でも多くの人の目に触れることは、とても意味のあることです。大げさではなく、あなたはレッサーパンダの未来を明るくする手助けを、この質問でしてくれたことになるのです。また、特別にレッサーパンダに興味を持ってくれているのであれば、是非とも動物園・水族館の飼育員や獣医師、保全・保護団体の一員、研究者などを目指してみてほしいと思います。私たちのお仲間に加わってくれたり、レッサーパンダについて考えてくれるととても嬉しいです。また来年のレッサーパンダの日も、参加してくださいね!
ついつい熱く長く書いてしまいましたが、皆さんはどう感じましたか?どちらもレッサーパンダについて知りたいという気持ちが表れた、真剣で意義深い、良い質問ですよね。次回も2問、回答します!