レッサーパンダ

涼しくなり、屋外展示場にレッサーパンダが出られるようになりました。そしてイベントからは1か月が経ってしまいました…。ということで、遅くなりましたが、前回に引き続き、世界レッサーパンダの日に行ったイベント「みんなのギモン?おしえて!レッサー!!」で頂いた質問に答えていきます。
Q レッサーパンダはどうして竹を食べるの?(無記名)
A レッサーパンダや、おなじく竹を食べるジャイアントパンダは、竹が食物の9割以上を占めます。昆虫や小動物、鳥の卵のようなタンパク質も摂りますが、これらはほんの一部で他の多くは植物質です。なので「限りなく草食に近い雑食性」と言うことができます。しかし、分類学上はどちらも同じく「食肉目」というグループに属しています。このグループには名前の通り、多くの肉食動物が含まれます。歯を見ても、鋭い犬歯があり、見た目には草食性が強いようにはとても見えません。実際、食肉目の動物の祖先は完全な肉食だったと考えられていますし、レッサーパンダも肉食の祖先から進化してきたはずなのです。
では、なぜ竹を専門で食べるようになったのでしょう?諸説ありますが、有力な説として上げられているのは主に2つです。
まず1つ目は、生息地に竹が豊富に生育しており、敵から隠れるのにも竹藪は好都合だったためという説。レッサーパンダの故郷である中国南部やネパール、ブータンの標高の高い地域は竹が豊富に生育しています。この竹を餌として利用できれば、餌に困ることはありません。また、敵から身を守るためには、竹がたくさん生えている森林に隠れるのは非常に有効な戦略です。
2つ目は、竹を食べる他の動物がほとんどおらず、餌を得る際の競合相手がいなかったためではないかという説。1つ目の説の説明で、竹が豊富に生えているため餌には困らないと言いましたが、それでは他の動物も皆竹を食べたら良いのではないかと思うかもしれません。ただ、竹は繊維が硬くて食べにくく、苦労して食べても栄養が少ないため、大量に食べる必要があります。一方豊富に生えているため大量に食べることができれば、生きるために必要なエネルギーをまかなうことができます。栄養価が低い竹を食べ、栄養を吸収できるように進化してきたレッサーパンダは、他の動物のように餌を探し回ったり狩りをしたりする苦労はない代わりに、強力な顎を使い1日の長い時間を竹を食べることに充てて生き抜いてきたのではないか、と考えられています。
とはいえこれらはあくまでも進化学、骨格学、形態学などの研究を総合して得られた「説」ですので、正解は分かりません。
ただ、竹を専門で食べることになったレッサーパンダが特殊な動物であることは間違いないですね。


竹を無心で食べる「ユズ」。何故竹を食べるのか、真相は本人も知らないでしょうね。

Q ユズとみたらしの同居はありますか?(みさきち)
A 当園の個体のことを熟知した方と思われますが、気になる方が他にもいらっしゃると思うので、お答えしていきます。
まず経緯説明をしますと、「みたらし」(♀、10歳)は「カイ」(♂、15歳)とペアリングし、2017年には繁殖に成功しています。しかし「カイ」が高齢になったことや、当園の飼育スペースの関係等の理由から、当ペアの繁殖はこの1回で終わりということになりました。そんななか、昨年12月に仙台市八木山動物園からやってきたのが「ユズ」(♂、5歳)です。若いオス個体、みたらしのペアリングのお相手だと考える方が多いのは当然と思います。
ただ、結論から言うと、「みたらし」と「ユズ」をペアリング・同居することはおそらく今後ありません。レッサーパンダの繁殖は、全国の動物園が相互に慎重に調整しながら進める必要があります。そして国内に数多いるレッサーパンダたちは、もれなく血統登録によりデータ管理されていて、大まかに「国内に少なく、これから殖やすべき血統」と「現在既に多く存在しており、今後の繁殖に調整を要する血統」に分かれています。当園の3頭はいずれも、後者の血統、繁殖をどちらかといえば控える血統に含まれています。この血統の分類に基づきながら、殖やすべき血統はペアリングをし、調整を要する個体は繁殖制限をするというように、計画に基づいて全国で足並みを揃えて個体群管理をしています。
子どもを授かることは非常に喜ばしい事であり、等しく繁殖は素晴らしいものです。また、レッサーパンダは希少野生動物ですので、本来であれば積極的に繁殖がされるべきです。ただ、現在日本で登録されているレッサーパンダは260頭あまり、これは日本の動物園で飼育できる限界数にかなり迫っている数字です。ということは、限られたスペース、動物園や施設の数の中で、少しでも多様な血統を管理し、今後の遺伝的な多様性を殖やせるように管理していかなければなりません。そのためには、同じ繁殖でも、現在少ない血統のペアの繁殖がより望まれるという訳です。殖やせるだけ殖やせれば良いですが、場所も個体も限られた中で行う場合、このような血統管理に基づいた計画的な繁殖は非常に大事です。


老齢で繁殖からは引退の「カイ」。2017年に「みたらし」との間に「マロン」が生まれました。


しばらく悠々と単独生活を楽しむことになりそうな「みたらし」。

長く複雑なお話になってしまいましたが、そんなわけで、当園で現在飼育している個体同士でペアリングや同居をする可能性は低いです。単独で行動する動物なので、繁殖を伴わない同居も、行う予定は今のところありません。

今回も、核心を突く良い質問でしたね~。このほかにも面白い質問、私を唸らせた名ギモンへの回答を展示場前にも掲示しています。
改めて、ご参加くださった皆さん、ありがとうございました!来年もイベントへのご参加、お待ちしています!


屋外展示場ではしゃぐ「ユズ」。いつか繁殖に貢献できる日を待つばかりです。