動物病院だより

2024年2月29日(木)、ユーラシアカワウソ<へレス>(オス)の健康診断を麻酔下で実施しました。<へレス>は現在14歳、高齢です。
前日、展示場から戻って夕方の餌を食べた後、寝ている<へレス>を横目に担当者が食べ残しを回収し、麻酔当日の朝は絶食、10時過ぎに麻酔をかけに行きました。へレスはお腹も空いているし展示場にも出たくて、笛のような声で鳴きながらウロウロしていました。


扉に寄って来る<へレス>

ユーラシアカワウソは体形が何となく全体的に平たくて、足も短く、動きも早いため、計画した時からどうやって麻酔を行おうか悩んでいました。網などで捕まえて動きを止めてから麻酔薬を直接注射するか、麻酔銃で遠くから狙って入れるか、結局決めかねたまま現場に行き、その時の<へレス>の様子や動き方などを見て、麻酔銃の方が動物への負担が少なそうだと判断し麻酔銃を選択しました。麻酔銃は、動物との距離と角度が重要です。基本的には筋肉の多い大腿部(太もも辺り)に打つことが多いのですが、今回準備した麻酔銃では1~2メートルの距離が最適で、麻酔の針と大腿部が垂直になっていないとうまく刺さりません。<へレス>は怖がることもなく扉の近くに寄ってきてしまうためなかなか撃てず、麻酔銃を構えてしばらく待っていると、1メートルくらい離れた場所で<へレス>の体がちょうど良く横向きになり、動きが停止した瞬間に発射しました。無事に大腿部に麻酔薬が刺さり、刺さった瞬間は少しクルクル動きましたが、その後しばらく歩いたのち伏せをして2~3分後には寝てしまいました。


麻酔中の<へレス>

急いでケージ入れて体重を測り、車で病院に運び、気管挿管を行って吸入麻酔薬で維持しました。カワウソは泳ぎが上手く、水中にも潜る動物で息を止めることも多いためか、麻酔をかけると自発呼吸が止まってしまうことがよくあります。今回<へレス>も病院に到着してしばらくすると自発呼吸が消失したため、人工的に呼吸を補助しつつ検査を行いました。


呼吸管理をしつつ、必要な処置を実施

以前より右の腎臓に結石があり、今回2年ぶりの検査でやや拡大が認められました。血液検査での腎機能の数値は今のところ正常で、そのほかの異常も認められませんでしたが、今後、腎結石や年齢の影響などで体調が悪化してくることも予想されるため、日々の観察が欠かせないです。

歯石除去の後、麻酔を止めて20分後にやっと自発呼吸が戻り、モゾモゾ動き始めた頃に獣舎に戻り、しばらくアザラシのように後肢を伸ばして這い回っていましたが徐々に歩けるようになり、夕方にはしっかりごはんを食べ、くつろぐ様子が見られました。


麻酔後、夕方の餌を食べた後、まったり過ごす<へレス>

動物園では健康診断でも麻酔が必要な動物が多く、動物種や年齢によっても反応に違いがあり、動物にとって命がけの処置です。事前に血液検査をできる事も少ないため、麻酔を行う時はいつも色々考えて準備しますが、やっぱり毎回緊張します。今回も無事に終わって良かったです。


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